第72章 花火と月
約一時間ある花火大会、半分程経った頃だろうか
彼に名を呼ばれて隣を見遣れば真っ直ぐな瞳に捕まった
「ねぇ沙夜子知ってた?野生の動物は好ましい相手を選ぶときに体臭を判断材料にするらしい」
「……へ、へぇ……」
花火の感想かと思いきや30分程前に終わった筈の匂いの話題を振られて戸惑ってしまう
野生動物のその習性と今この状況が何の関係が有るのか理解出来ず視線を返していると彼は続けた
「同じように人間も異性の匂いに反応するんだって。生物は皆そうらしいのだけど、自分となるべく異なる遺伝子を持った相手と交配する事で強い子孫を残そうとするんだよ。その遺伝子を見分ける方法が匂いなんだって」
「………はい……」
突然饒舌に語り出した彼
しかも内容に"交配"なんて言葉が聞こえてどう反応すれば正解なのか解らずにぎこちなく頷く
「つまりは……俺と沙夜子も相性が良いって事だよね」
「………っ!!」
私を真っ直ぐに見詰めたままに放たれた言葉に変な汗が噴き出す
(えっと…………性格的な事………?肉体的な事………?えっと………何……イルミさんいきなりどうした………?!?!)
私は一体何を言われているのだろうか……フリーズしたまま彼を眺めるが彼は一人納得した様に数回頷くと視線を花火へ向けて私は置いてきぼりを食らった
(………うん…………で!?!?!?何????)
彼が一体何を思い何を考えているのか全く理解出来ないままに次々上がる花火の音を何処か遠くに聞いていた
楽しみにしていた圧巻のフィナーレを彼と二人で見る事が出来たのにバクバクと騒ぐ胸のせいで全く集中出来なかった
元凶を作った彼が恨めしくて精一杯睨んでみたが彼は視線に気付く事無く無表情な横顔を覗かせていた
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車で帰路に着く私達だったが見事にPLが生み出した渋滞にはまっていた