第72章 花火と月
「……ここで何があるの?」
「あ、説明がまだでしたね、」
彼に頼んでわざわざやって来た金剛山
何故何もない山の中へ遥々やって来たかというと本日8月1日は関西随一と評されるPL花火大会があるのだ
そして、この金剛山はビルに遮られる事無く約2万発もの花火を眺められる穴場的なスポットで、現に周りにはちらほら車が停車し始めている
若干距離がある為迫力には欠けるかもしれないが大会会場の人混みを避けてゆっくりと観賞するにはもってこいの場所だった
私の説明を黙って聞いていた彼は長い指で顎を擦りつつ興味無さ気に、ふーんと声を漏らした
「……イルミさん花火好きですか?」
「好きか嫌いか解る程じっくり見た事が無いかな」
「そうですか……じゃあ今日ゆっくり見ましょう!」
「……会場じゃなくて良かったの?」
「はい、この間のお祭りより人いっぱい来ますから………ここからやったらゆっくりみれるし!」
「この間より………凄い人気なんだね」
「はい!めっちゃ綺麗ですよ!」
そんな会話を交わしつつナビの画面でテレビ番組を見て時間を潰す
どれくらいそうしていたのか
辺りはすっかり暗闇に包まれ到着した頃よりも車も増えていた
時刻も良い感じなので花火を見渡せるベンチ迄やって来て腰掛ける
標高が高い為か街中より強く吹く風に煽られて彼の香りがふわりと薫りキュンとしつつ彼を盗み見ると長い髪が私の顔を直撃した
「うぉっ………」
「あ、ごめん」
驚いた拍子に声をあげてしまい事もあろうに艶やかな髪の毛を少し食べてしまった
払おうにも風向きで次々と顔に直撃するのでジタバタしていると彼は徐に立ち上がり風下の方に座り直した