第72章 花火と月
8月1日
私は彼の走らせる車の助手席にて流れる街並みを眺めていた
夕陽に照らされたビル群の窓ガラスは橙色に輝き眩しさに瞳を細める
至って安全運転を心掛けてくれている彼の運転テクニックは相当なもので発進もブレーキも細心の心配りを感じるスムーズさで乗り物に弱い私だが一度も車酔いした事が無い
チラリと隣を見遣ると緩く握った右手でハンドルを切り左腕はだらりとシートに落ちている
彼は基本的に片腕運転で真っ直ぐ先を見据える瞳は気を抜いているのか細められており垂れる前髪を時折かきあげる仕草にドキドキしていると私の視線に気付いた彼と視線が絡む
「……酔った?」
「いえ、全く!」
私の視線の理由を乗り物酔いを訴えていると思ったらしい彼に声を掛けられて即座に否定する
仮に彼の運転で酔っているのだとしたら他の乗り物に乗る事は出来ないだろう
「……そう」
運転中の為直ぐに離れた視線
西日に照らされて浮かぶ彼のシルエットを眺めつつただ車に揺られている今この時が本当に贅沢に思えた
______________"
暫くして到着したのは金剛山の山頂付近
車を駐車するが時間にはまだ早くそのまま待機する事にした