第71章 ミッション
ネットを避けた事に相当驚いたらしい彼はカラス達の学習能力を踏まえた上でエアガンを選んだのだと少し悔しそうに言った
付属する専用バイオBB弾は生分解性プラスチック製で約2~3年で土に返る優れもの。環境に配慮している辺りも彼のお気に入りポイントらしくえらく得意気に現物を見せながら説明してくれた
(………イルミさん環境とかどうでも良さそうやのに………)
其れから彼はゴミネットとエアガンの二重武装でカラスと対峙し始める
カラスがゴミを漁るタイミングを見計らい彼は玄関先から身を隠しつつくる日もくる日も射撃し続けた
正確には本体には当てていないらしいが射程距離ギリギリの距離からカラスを狙えるのは彼の腕が有ってこそだろう
その攻防を地道に繰り返し季節は7月下旬カラスは遂にやって来なくなった
彼は今度こそ本当にカラスに勝利した………かのように思えたのだが
ある日1羽のカラスだけが舞い戻って来た
残りの4羽は辺りに居らずたった1羽で彼へと直接攻撃を仕掛けて来たそうだ
彼は心底感心した
その果敢なる行動は何処か気高く黒い出で立ちは暗殺者の影を思わせた
カラスは無謀な強者に直接対決を挑んだのだ
「勝ち目の無い相手とは戦うな、これは鉄則だからやっぱり所詮は鳥だなと思ったけど……見事だった」
そして彼はその誇り高き1羽のカラスを挑戦者の刺客、真剣な命のやり取りとして厳粛に殺めたのだ
「で!!なんで死骸を玄関に置いてるんですか!!!ビビるわ!!!結局殺してるし!!」
「記念に剥製にでもしようかと思って」
「…ッ!!!怖っわッ!!直ぐに埋めましょう!!」
「埋める?」
「公園に埋めるの!簡易ですけどお墓です!!!」
私は彼を強引に引っ張り適当でカラスには申し訳ないが捨てても良い段ボールに入れてもらった
私達は夜の公園で静かに穴を掘った
正確には彼が直ぐに堀ってしまったので私は何もしていないが其処にカラスを埋め、二人で手を合わせて帰路に付いた
小さな公園の端っこに小さくて勇敢な戦士が眠っているのを知っているのは
私と彼だけだ。
そして嘗ての仲間だった4羽のカラス達は仲間を見掛けなくなった事でやがて仲間の死を悟るのだろう………