第70章 未来について
私なら即死の訓練を5歳という幼い子供の頃に受けていた……他にも数え切れない程の想像を絶する訓練を受けてきたのだろう
そんな壮絶な過去が今の彼を作り上げたのだと痛感する
箸を両手で扱うのも入念な針の御手入れも今迄の人生があってこその行動
私の平凡な人生とはかけ離れている事なんて想像する迄も無く解っていたはずなのに平然と日常に馴染む彼を見ているとそんな事すら忘れてしまう
漫画を読んで彼が架空の人物だと思っていた頃の私のイメージとは違い実物の彼は優しく紳士的で素直だった
所詮私が知った気でいた彼はほんの一面に過ぎず、きっと今だってそうだ
彼は私と関わって得た物はあったのだろうか……
ここでの生活もいつか彼の人生に組み込まれ、軈て彼はどんどん私の知らない人物になって行くのだろう
そんな事を考えながら私は隣に肩を並べる彼をどこか現実味無く見上げた
スーパーに到着し、手早くたこ焼きに必要な材料を買い揃えた
そして
「すみませんが玉子1パックお願いします」
「うん」
しっかりとお一人様1パック限定の玉子を二人並んで2つゲットして帰った
セールでお得な事を理解しているイルミさんは何処か満足気で
そんな日常がずっと続けば……なんて想像して胸が痛くなった