第69章 夏祭り
私に話すと言うよりは独り言の様に何処か遠くに視線を向けたまま言葉を紡ぐ
「今まで生きてきて人を殺す術を沢山学んできた……嫌という程にね。俺の家はそういう家でそこの長男に生まれたんだから従う事に疑問も無かったし抗う事も無かった」
自身の事を話す事は珍しく私は黙って彼の横顔を見続ける
「俺には暗殺術の他に何も無いんだ。」
酷く寂しい台詞
「そんな事すらどうでも良かった………良かった筈なのに沙夜子と出会ってから時々だけど…………今まで歩んだ人生が空虚なものに思える時がある」
嫌に胸が騒いで心地悪い……足元へ視線を落としつつ何も言うまいと押し黙ったのは話に続きがあるから
「………だけど俺はきっと永遠にこの世界から帰れないとしても同じ道を辿るんだと思う。……俺は所詮根っからの暗殺者で……そうでないと生きられないから」
彼はゆっくりと缶を傾け喉を鳴らす
私は瞳一杯に滲む涙を必死に堪えた
彼が居なくなる事なんて解りきっている
だけどまたいつか同じ念能力者に頼んで再び目の前に現れる日が来るのでは無いかと知らず知らずの内に身勝手な淡い期待を抱いていたのだ
其れが打ち砕かれた気がした
元の世界で無いと自分らしく生きられないと彼が感じているのだから……
____________"
私はあの後気分を変えるように様々な話しをした
親友の事、幼い頃に失敗した話し、この間アルバイト先で教えてもらった豆知識
彼は柔らかな表情でずっと相槌を打ち続けてくれた
そして私は決して泣くことは無かった
帰りに買ったベビーカステラとコンビニで買ったパスタをちゃぶ台に広げてすっかり入浴を済ませた私達は何時ものスタイルで録画していた映画を見て眠りについた
居なくなる事なんて承知の上で好きになったのに………
苦しい胸を抱えて彼が引いてくれた右手をただぼんやりと眺めた