第69章 夏祭り
私は夢中になって金魚をすくい続けてポイの紙が全て無くなる頃には器は2つ満杯になっていた
「………あれ……」
ふと隣に彼が居ない事に気付き驚く
スタートした時は彼も隣で金魚をすくっていた筈だ
私は素早く器を返却して立ち上がり通りへ出ようと振り返ると彼は背後に立っていた
「………っびっくりしたぁ………!!気配消して後ろに立たんといてくださいよ……」
「ごめんごめん。沢山すくったね」
「……あ、見てたんですか?」
「うん」
「イルミさんはどうでした?」
「全然。始めに強く水に浸け過ぎた」
「そうでしたか……上手そうやのに」
そんな会話を交わしていると真っ直ぐに私を見据えた彼が左手を差し出し
「行こう」
と言うのでおずおずと握った
当然の様に彼に触れられる
触れる事を許されている事が嬉しくて強く握ると彼はチラリと私を見下ろした後にしっかりと握り返してくれた
放送がかかりお神輿が通るので道を開ける様に呼び掛けているので彼を引っ張り道の端に寄る
暫くして威勢良くお神輿が目の前を通過した
チラリと彼を盗み見ると彼は瞳を輝かせてじっと眺めていて思わず頬が緩んだ
そしてまた肩を並べて歩き出す
じんわり滲む手汗が恥ずかしいが離したくなくてそのままでいた
「………沙夜子」
名を呼ばれて彼を見上げると彼は違う何処かを見ていて
すっかり日が暮れて屋台の明かりに照らされくっきりと浮かぶ彼の横顔はゾッとする程美しく息を飲む