第69章 夏祭り
祖父は厳しく優しい人だった
春には桜を、夏には海を、秋には紅葉を、冬には雪を
沢山の景色を教えてくれた
12年間癌と戦い遂に昨年この世を去った
大きな手術を繰り返しては見事に復活して仕事に勤しむ姿は不死身なんじゃないかと思わせた
「男は気合い!仕事できひんなったら役立たずや!」が口癖の祖父は誰の手も煩わせず実に潔く最後を迎え実に祖父らしく人生の幕を閉じた
今もあの日と変わらない祭囃子を聞きながら私はあの頃の様に「金魚すくいしたい!」と声を弾ませた
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私の言葉を聞いて彼は直ぐ側の金魚すくいの屋台で立ち止まった
屋台のお兄さんから其々ポイを受け取り空いている場所にしゃがみ込んだ
器に水を入れてスタンバイし、水中を泳ぐ金魚に集中する
昔から金魚すくいが大好きで成長するにつれて腕前も上がり器を2つ満杯にした過去がある
全ての神経を集中させて慎重にポイを水に浸けタイミングを見ては金魚をすくう
どれだけそうしていたのかあっという間に器は一杯になり脱走する金魚迄現れたので屋台のお兄さんに2つ目を貰う
ポイはすっかりふやけているがまだまだ頑張れる
2つ目の器に少しずつ金魚が増えた頃遂に小さな穴があいてしまったが完全に紙が無くならない内は平気だ