第68章 ゆかた
襟元を整える為に伸ばした手は僅かに彼の素肌に触れて緊張が込み上げた
しかし襟元さえ作ってしまえば此方のものだとキッチリと、しかし手早く作業をこなす
腰紐を縛る際にまるで抱き付く様な格好になるのにどぎまぎしつつも30分程で完璧に着付ける事が出来た
「はい!出来ました!」
「ありがとう」
「いえ!」
羞恥から逃げたい一心で必死になっていたが改めて彼を見詰めると
(やばい…………めっちゃ似合う…………キュン殺される…………)
普段の上品な雰囲気に輪をかけて凛としたオーラは涼し気ながらも何処か色を含んだ印象を受ける
浴衣の深い藍色が長く艶やかな髪の黒を際立たせそのコントラストから透き通る様な肌が美しく私の脳内イメージは正に光源氏だった
源氏物語で様々な愛欲に溺れたプレイボーイは今目の前に居る彼なのではないかと錯覚してしまう程彼は甘美で魅力的だ
「………イルミさん………めっちゃ似合ってます!!……カッコいいです!!」
私の頬は未だに火照っているがあまりの感動に思わず声に出した
彼は短く「そう」と言って鏡を見遣っていたが特段似合っているとは思って居ない様だった
そんな彼の背中に自身も身仕度を整える旨を伝え
少々時間が掛かるので読書の続きを勧めて洗面室の扉を閉じた
____________"
約1時間程で自身の着付けを終え洗面の鏡で最終チェックをする
髪型もメイクも完璧、浴衣も完璧だ
白地に墨絵で紫の薔薇がちりばめられた浴衣に敢えて赤と金の帯を締める事で全体がまとまった印象だ
そして髪飾りには京都を訪れた際に彼がプレゼントしてくれた紫の花を華やかに象ったかんざしをさした
顔の火照りもすっかり落ち着き鏡の前で緊張した面持ちの自身は綺麗に着飾っている
気合いを入れる様に軽く頬を叩き扉を開くと音に釣られて視線を向けた彼の瞳が少し見開かれた
「お待たせしました!行きましょう!」
「うん」
その表情から何を思ったのかは読み取れ無いが綺麗だと思ってくれていたら……なんて願望を抱きつつワクワクとした気持ちで二人アパートを後にした