第68章 ゆかた
(………冷静に。平常心。………別に見いひん様にしたら良い………。)
懸命に自身に言い聞かせて視線を下に落としたまま振り返った私は長年の感覚でちゃぶ台に向かって歩いた…………のだが
「……っ!!!」
突然手首を掴まれて先程とは比べ物に成らない程に心臓が高鳴り息が詰まった
「………顔赤いけど大丈夫?」
「……だ、大丈夫です」
「本当に?」
「……ほんまです!」
彼がこういった場面で執拗に私に絡む時は何らかの確信を持ちつつからかっているか、本当に心配しているか二つに一つだ
白々しい声色から前者だろう事は容易に想像出来るが私は反撃の術を持たずただ俯く
「……あの、……ほんまに大丈夫ですから……」
私の声は小さく絞り出され
彼は間をあけて私を解放した
「………それなら良いんだけど」
全く心配していなさそうな響きが憎い
「………では……まず羽織ってください。肩幅に脚を開いて」
言われるがままに浴衣を羽織った様子にホッとしつつも襟元を揃える為にやっとの思いで上げた視線
私の目に映ったのは浴衣という名の布を軽く羽織りその肉体を惜し気も無く露にした彼の姿で、不可抗力ではあるが見知った下着が視界に見える
帯を締めていないので当たり前なのだが余りにも刺激が強く瞬間的に顔の熱が増した
こんな状態で彼の表情を伺う勇気は無いので
視線は常に自分の手先を見詰める事にする