第68章 ゆかた
返事は無いがとにかく準備を進める
浴衣を着付けると一言に言っても女性同様紐類は必要だし帯も予め準備しておくと便利なので真新しい証の包装を解きちゃぶ台に並べて置く
と、徐に立ち上がった彼が脱ぎ捨てたTシャツがパサリと音を立てて床に落ち意識せずとも視界の端に肌色が映る
徐々に鼓動が早まってしまうのは当然の反応では無いだろうか
冷房で適温に保たれた部屋で汗が浮かぶ額を拭いつつも
すっかり準備を済ませて手持ちぶさたになった私は気まずさからゴミになった包装のビニールをキッチンのゴミ箱に捨ててしまおうとその場を離れるがたった其れだけの用事は直ぐに終わってしまった……
振り返った先に彼が居ると思うと振り向く事が出来ずにシンクに視線を落とす
背後から耳に届くのはカチャカチャとベルトを緩めて金属がぶつかる音で
普段身近で聞き馴染みの無い其れは彼を強く意識する余り何処か艶かしい響きにすら感じる
一瞬にして顔が火照るのが自身でも解った
(………………あかん。意識するから恥ずかしいねん!!!イルミさんは意識してないからすんなり脱いでる訳やし…………ていうか………私に言われるがまま浴衣着るって……………ちょっとは抵抗しろよッ!!!!着せ替え人形かよ………ッ!!!)
羞恥心から理不尽な怒りを彼にぶつけて気を紛らわせていると
「脱いだけど」
淡白に声を掛けられ思わず肩を震わせてしまった