第63章 バーが似合うのは大人だけ
「沙夜子に何をした」
背後から自身を刺す様なオーラを感じて立ち止まる
ゾクゾクと背中を粟立たせたのは待ち人の鋭い殺気故だった
「遅かったじゃない……彼女すっかり眠っちゃってお楽しみ所じゃなかったよ♥️」
「答えろ」
「今のは答えに成ってないって事?」
大きく膨れ上がった殺気は男の戦闘意欲を刺激した
一際大きく揺れたオーラに攻撃を仕掛けられたと直ぐ解る
普段冷静な暗殺者があるまじき動揺の現れだった
男は咄嗟に抱いていた女を優しく道の端に横たわらせるとトランプを数枚放った
弾けた針、しかし暗殺者は肉弾戦で男ににじり寄る
端から見れば何が起きているのか等解らないだろうが
お互いに致命傷は避けながらも確実にかすり傷を増やし頬を流れる血液の暖かさを感じていた
と、息を切らせる間もなく其所に大きく安定を保ったオーラがもうひとつ出現する
戦闘の最中視線の端にクロロの姿を捉えたのは両者同じタイミング
「おーい!彼女風邪引くぞ!こんな所に転がして!」
瞬間身を引いたのは暗殺者の男だった
猟奇的な笑顔を湛えた顔は一瞬にして歪む
「ヒソカ……もう一度聞く。沙夜子に何をした」
「……………別に何も。たまたまうちの店に来て潰れちゃったからちょっと君をからかおうと思っただけ♦️」
「死ね」
「……またボクとデートしてくれるなら良いよ♥️」
邪魔が入ったせいで男の思い描いた通りの乱舞を楽しむ事は出来なかった
しかし、今まで自身との戦闘は無益で面倒だと言い放っていた彼をその気にさせられただけで充分に進歩、と自身を納得させて潔く身を引く
「クロロ、金なら払うからあの変態抹殺しておいてよ」
「ボクなら何時でも歓迎だよ♥️」
「えー…………」
自身の口調から洞察力の高い彼は本当に何もなかったのだと悟ったのだろう
彼女を抱えて足早に立ち去ってしまった
残った二人は
「おい!面倒だから問題を起こすな!」
「クックックッ………欲求不満になっちゃったぁ♥️」
「気持ち悪い!寄るな!」
「ボクとデートしてよ♥️」
「断るッ!!!!」
「つれないなぁ…♦️」
ホテル街で意味深な会話を繰り広げつつも帰路へ付いたのだった