第62章 お弁当のヒトコマ
7月のある日
バイトの小休憩中、藤木に呼び掛けられて顔を上げると驚くべき言葉をかけられた
「イルさんめっちゃ近くの現場で働いてたけど見た?」
「え!!」
「…………あ、そうか、さーやの家反対方向やもんなー」
「みたい!どこ!!」
「すき家の隣」
「まじか!昼休み行く!ありがとう藤木!」
「めっちゃラブラブやんー!羨ましー」
「……??藤木彼女と上手くいってないん?」
「……まぁ、微妙」
「まじか……なんかごめんな?」
「うるさいわ!…………また飲みに行こうぜ」
「任せとき」
私はお客さんに酷く怒鳴られた事も忘れて彼の事を考えるだけで幸せな気持ちになった
そして、藤木を心配している気持ちは本当なので今度飲みに行こうと思う
昼休みまでの就業時間は途方も無く長く感じたが休憩を知らせるチャイムと同時にお弁当を持ち席を立った
向かう場所は決まっている
(……すき家の横、すき家の横、すき家の横…………)
私は今にも駆け出したい気持ちを抑えてビルを後にする
藤木の目撃情報が正しければ彼は徒歩二分圏内の距離にいる筈で
平日の昼間彼と会う事の無い私はすっかり浮かれていた
しかし、すき家横の現場に到着した私は彼らしき姿を確認する事は出来なかった
何度も何度も一軒家程の面積を確認したが彼の姿は無く会えると期待していた分ガッカリしてしまう
急いで飛び出して来てしまった分そのまま会社へ戻るのも気恥ずかしく近場の公園で昼食をとることにした
その足取りは重く、先程迄の自身と同一人物なのか疑わしいレベルだった
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