第61章 星に願いを
7月7日
七夕
私は普段立ち寄る事の無い花屋にて小さな笹を買い帰宅した
……のだが…………
「こら。何でも拾ってきちゃ駄目でしょ。早く捨てて来な」
「…………」
玄関から上がるなり彼に淡々とした口調で叱られてしまった
彼の視線はしっかりと握り締めた笹を捉えている
私がこの笹を何処かから折って持ち帰ったかの様な物言いだ
私は嘗て何かしら物を拾って帰宅した事があっただろうか……と記憶を思い返すが身に覚えも無い
「あの…イルミさん」
私の呼び掛けに真っ直ぐ此方を見詰める彼は実に堂々としており
私の何処かが彼の長男気質を擽ってしまったのだろうか………
「これ買って来たんですけど………」
事実を述べただけなのだが彼は怪訝な表情を浮かべる
「ちっぽけな枝を?」
「………はい」
「そんなに気に入ってるの?」
「………?」
「捨てるのが嫌で嘘付いたでしょ」
「なんでやねんッ!!!」
「違うの?」
何故だ。
彼の中で私が笹を拾って持ち帰ったという確固たる確信が揺らがない
「笹っていうんですよ」
「……はぁ……名前まで付けちゃって………」
「……!!!違いますよ!笹っていう種類の植物なんです!」
彼の瞳が私を哀れんでいる
しかし、拾って持ち帰った枝に名前を付ける程私はトチ狂ってはいない
いつの間に私は彼の中で其処までクレイジーな人物の印象になってしまったのだろうか………
彼は納得した様なしていない様な無の表情を向けるので一旦息を吐いてちゃぶ台を挟んで向かい合って座る
ちゃぶ台に笹を置き真っ直ぐ見詰め合うが真っ黒の瞳に見詰められて心が折れてしまいそうだ
「………7月7日は七夕と言います、願いごと書いた短冊とかを笹にくくりつけて星にお祈りをする文化があるんです……」
「………」
その後私は織姫と彦星の話を言い聞かせた
「………成る程ね」
何とか彼に理解してもらい私はやっとクレイジーな人物像から脱した様で一安心だ
「だから!これに願い事かきましょ!」
「……………」
予め昨夜切った折り紙の短冊を手渡すと彼は思考を巡らせる様に天井を仰ぎ見る