第60章 回転するヒトコマ
7月のある日
私とイルミさんは全国チェーンの回転寿司スシローにやって来た
丁度夕食時でごった返す店内は先に五組待ちで待ち時間は30分となり待ち合いの席もいっぱいで立ったまま順番を待つ
彼はやはり人混みで一際目立ち周りに寄る者は誰も居らず
平凡な私の周りには妙に人が密集している
彼を避ける為に無理にスペースを開けた人々は皺寄せでより密集していた
(暑苦しい……………)
周りの人に当たらぬ様に身を縮めていると不意に強い力で引き寄せられて彼の胸板にぶつかる
「ぶっ……!」
「こっち空いてるよ」
こっち空いてる………というより彼を避けて出来た空間は不自然に人が寄り付かない
「……ありがとうございます」
途端に刺さる視線に冷や汗をかきつつも私達はじっと順番を待った
___________"
やっと自分達の番になりテーブル席に着くと彼の瞳はキラキラと輝いた
「どうしてスシを回す必要があるの?」
「回転寿司はお寿司を回す事でお客さんに商品取って貰って多分人件費抑えてるんじゃないですかね……?」
「ふーん。でもあれはスシじゃないのに何で回ってるの?」
彼が指差すのはうどんの器
「…………このお店の食べ物は回るんです」
彼は不思議な物を見る様にキョロキョロと辺りを見回していて非常に可愛い
どうして、何で、と沢山の質問をする彼は正に大きな子供だ
タッチパネルを操作して品定めする私をじっと見詰める彼はソワソワと落ち着き無く身体を揺らす
「イルミさん、欲しい物はお皿ごと取るんですよ!」
「ふーん。」
私はお手本にとレーンを流れるイクラの軍艦を取ってみせる
彼も私を真似て手を伸ばしたのだがその先に流れているのは他のテーブルでオーダーした印の付いた皿だった
「あかん!!!」
「?!」
私は咄嗟に彼の手を自身の手で制止した
間一髪だった………
「すみません!その印付いてるのは人の注文やからダメなんです!」
「……そう」
私の説明不足だ。彼に非は無いのに無表情ながらしゅんとして見える彼に心の中で謝った