第59章 沢山の思い出を
今回はノープランだった
「イルミさん、やっぱり水遊びしませんか?」
「……」
彼は静かに私を見据えた後に川辺へ視線を落とす
到着した頃の家族連れは居らずただキラキラと流れる水面
暫し彼を見上げていると
「うん」
と一言簡潔な返事をくれた
彼の言葉は何故だか心にすとんと落ちて暖かい気持ちになる
ズボンの裾を捲り素足を浸すとひんやりと心地好い冷たさがじんわり身体を伝う
「気持ち良いですよ!」
ズボンの裾を同じ様に捲った彼へ
振り返り手を差し伸べると彼はしっかりとした仕草で私の手を取った
「本当だね」
単調に発された声とは裏腹に私の後を付いて回り丸い石を拾い上げて繁々と眺めている姿は実年齢より随分あどけない表情で
私はただ漠然と溢れる胸の暖かさをそのままに笑顔を向けていた
カフェでの唐突なもしも話の意図は解らない……だけど
もしもの話より確かな今をしっかりと見詰めていたいと思った