第59章 沢山の思い出を
「そうしましょうか!」
私は思わず頬を緩めた
少し歩いて入店したカフェに冷房は入っていなかったが窓が開け放たれており店内に吹き込む風は爽やかで心地好かった
「涼しいですね!」
「うん」
注文の品を待つ間先程迄に撮った写メを二人で眺めて話したり
外の景色をまったりと眺めたりした
彼との無言は本当に苦に成らず不思議だ
暫くして運ばれてきたアイスミルクティーをかき混ぜるとカランと氷が鳴る
「沙夜子」
不意に名を呼ばれて顔を上げると彼も此方を真っ直ぐ見据えていた
「何ですか?」
「沙夜子は色々な所に外出するの……好きだよね」
「………?……はい」
「家でじっとしてるのは好き?」
「はい!ごろごろ万歳!」
「…………どちらかしか選べないとしたらどっちが好き?」
「え……………」
彼の意図が読めずに瞳を見詰めるが解らない
どちらかしか選べない……
私は様々な場所へ繰り出すのが大好きだ
ワクワクするし沢山の景色を眺めて空気を感じる其れだけで心が洗われる
しかし一方で家から出ずに何もせず本を読み、アニメや漫画の世界に没頭している時間も無ければ私としてのバランスが取れない
「………すみません。選べません……」
汗をかいたグラスから視線を戻すと彼の瞳はどこか切なさを湛えて何かの感情に揺れていた
それが何なのか読み取りたくて懸命に彼を見詰めるが彼は静かに視線を逸らす
「……そう」
諦めた様な呟きに何故か意地になるのは私が無神経だからだろうか
「……何でそんな事聞くんですか?」
「下らないもしも話に理由が必要なの?」
それは彼自身、自分に言い聞かせる様な響きを含んでおり胸が潰れてしまいそうに苦しくなる
私は少し氷が溶けて薄くなったミルクティーを飲み込んで
「空が綺麗ですね」
なんてどうでも良い言葉を紡いだ
私達以外誰も客の居ない店内にやけに響いて余計に寂しくなった
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そろそろ帰ろうかとカフェを出て元来た道を辿った
行きと違い帰りは何だか味気ない
しかし私はまだ諦めていなかった
川辺へ降りる階段に差し掛かった際、躊躇しながらも彼の腕を掴んだ