第53章 奇妙なヒトコマ
6月のある日
どんよりと厚い雲に覆われた空は何か嫌な事でもあったのかと聞きたいくらいの大雨を降らせていて傘をさしていてもびしょ濡れに成りそうだ
なんて考えながら帰路に付いていたのだが
吹き上げる風に煽られて傘が大破するのは想定外だった
(……………嘘やろ…………)
こんなびしょ濡れの姿ではスーパーで買い物をするのも憚られるので急いで自宅に向かう
アパートに到着する頃には全身ずぶ濡れになっていて鞄もびちょびちょな上に中の物も濡れていて鍵がすんなり出て来ない
(……あーっ……もうっ……!)
私はアパートに住み始めてインターホンを初めて押した
暫くして開いた玄関には良く見知ったと言うべきか自身が一番知っている顔が立っていて恐怖の余り腰を抜かして私は意識を手放した
_________"
「………沙夜子、……沙夜子……」
愛しい無機質な声に意識が浮上して瞼を開いて見る
途端に身体中が震えて声も上げられない