第52章 程々が一番
心底理解不能という様に視線を下げる彼は本当に可愛かったのだがそれ以上言ってしまうと機嫌を損ねそうなので声には出さなかった
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夕食後直ぐにデザートとして苺を出してみる
と、彼はキッチンへ向かい練乳を一気に絞り出した
あっという間にお皿は練乳で一杯になり苺が浸る
「……………私…………私…………そのままで食べたかったのに………」
「え」
「練乳かけるんやったら自分のだけにかけてくださいよ!」
「……………ごめん」
大好物を好きな様に食べられない事に怒りをそのまま彼にぶつける
食い意地が張ってると言われ様が何だろうが嫌だったのだ
彼は驚いた様に瞳を見開いた後にしゅんとしたまま静かに座っていた
後日彼は実に30パックもの苺を購入して帰宅し
私にそれら全てを突き付けた
「好きなだけ食べて」
彼なりのお詫びなのだろう
その日の内心苦しくなり謝罪した私だったが再び謝罪する
大量の大好物を前に嬉々として頬張っていた私だったが
食べても食べても消えない苺に身体は拒否反応を起こして吐き気を催す
「うぅっ………」
「……?」
「………もう…………いらん………」
「え」
「…………もう食べられへん…………」
私は滲む涙を堪えながら彼に何の感情も無い顔を向けた
「………もう………苺…………嫌い…………」
「そう……」
バラエティー番組の笑い声が響く部屋には小さな嗚咽と大量の苺で噎せ返る様なフルーティーな香りが充満していた