第5章 外出先の彼は美形を超える
私は子供の様にわんわんと声を上げて泣いた。
彼は僅かに目を見開いた後、優しく抱き締めてくれた
昨夜、布団に潜って感じた彼の匂いがした。
同じシャンプーやボディーソープなのに…なんて照れくさい気持ちになったが今は彼が存在するという事実を確めたくてギュッと彼の服を握り締めた。
そして……… 何度もしゃくり上げる内に私は着実に冷静になっていた
未だ腕の中に抱き締められ想像より幾分も逞しい胸板に頬を寄せている今の状況にも大変緊張し、心臓はパンクしそうなのだが
正月飾り等を買い求めて来店する大勢の客の視線を一身に受けている事に気が付いて汗が止まらない
(ヤバい……ヤバいヤバいヤバい……)
「イルミさん、すみませんもう大丈夫です」
完全に体重を預けていた身体を離して
握り締めて少しシワになった彼の黒いロングTシャツを軽く伸ばし呟くと
彼はすんなり腕から解放してくれた
そして徐に私の手首を掴んで歩き出す
不意に彼の片腕に沢山の買い物袋が下げられている事に気が付いた
またしても私の頭上にクエスチョンマークが出現する
暫く歩いた彼はエスカレーター付近のベンチに座る様に促した
(イルミさん優男………)
「落ち着いた?」
「はい、すみません」
「何があったの?」
隣に座った彼は私の様子を伺う様に顔を覗き込む
本当に真っ直ぐ見詰める人だな……なんて呑気な事を考えたのは一瞬で
泣いていた理由についてどう説明すべきなのか困惑した