第44章 私とクジラ
「嘘やろ……………」
「?」
「ナミちゃん………」
目の前に広がったのはシャチの骨格標本
とても大きく立派で感心していた私だったが骨格標本の隣に設けられていた資料を読んで酷く動揺してしまう
私は昔ここに来てお利口にショーを盛り上げるシャチのナミちゃんに夢中になったのだ
そのナミちゃんのダイナミックで可愛いショーを再び見れるとばかり思っていたのに天命を全うして亡くなり骨格標本になっていた
私は説明を三度ほど読み直して立派な標本を仰ぎ見る
「……もう一回ナミちゃんのショー見たかったなぁ……」
「残念だったね」
彼は私の様子から説明パネルを読み状況を理解した様で励ますでも無く寄り添う様な優しい声色でそう言ってくれた
資料館は3階建てで私達は2階へ上がる
そこには博物館らしく生物学的に細かく鯨の生態を解説した展示物が並ぶ
私は余り興味をそそらないのだが彼は興味深そうに顎に手を添えて見入っている
真剣な眼差しで資料へ視線を向ける彼の横顔をぼんやり眺めつつ先程迄の彼はもしかしたらこんな感じで私を見ていたのかな何て思った
そして、ホルマリン浸けのあらゆる部位が展示されている場所に彼は余程興味がある様で両手をショーケースにベッタリ付けて子供の様なスタイルで私が声を掛けるまで食い入る様にいつまでもいつまでも見入っていた