第43章 他愛ない会話
釣りを楽しんだ私達はイカダ釣りの施設内にあるバーベキューでも出来そうなスペースで魚を捌こうとしていた
「……………」
「……………」
包丁を持ちまな板に乗ったまだ生きている魚を前にどうすれば良いのか解らずに最後の抵抗を試みて活良く跳ねる魚に短く悲鳴を上げる
「…………ごめん。まじで無理。無理…………」
誰に伝えると言うなら魚に伝えた形になる呟きを野太く吐いて彼に視線を向ける
「……………血抜きとか無理っす……………ついでに私魚捌けません……」
「……………」
短い沈黙の中、彼の黒々とした瞳を見詰めるが何の感情も見出だせない
「えっと………」
私が声を発した瞬間に彼の身体に横に押し出される形でスライドされて気が付けば鮮やかに包丁を取り上げられていた
彼は慣れた手付きで魚のエラに包丁を突き立てた後に尾びれを切り落とす
みるみる内に放物線を描いて飛び出す真っ赤な液体
「ひっ………!!!!」
「……………」
「…………イルミさん………捌けますか……」
「多分」
「御願いしますッ!!!!」
咄嗟に深々と頭を下げて潔く彼に全てを託したのは血液や臓物を取り除いて捌くのは自分には出来ないと心が白旗を振ったのと
彼は少なからず私より人体や生物何かの仕組みに詳しく巧く捌けるのではないかと考えたからだ
魚と目が合って怖くなったとかいう理由では決して無い。………決して。
生々しくブチュッグチャッと音が鳴り響く中
私はひたすらに彼の後ろ姿だけを眺めていた
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