第42章 釣り上げましょう
私達は早速受付を済ませて船頭さんの運転する船でイカダへやって来た
船上でキョロキョロと海を見渡す彼がえらくあどけなく見えて可愛かった
イカダにはトイレも完備してあり
屋根のあるスペースには畳が敷かれてゆっくり寛げる様になっていた
想像していた心許ないイカダとは違い遥かに立派で揺れも少なく長時間の釣りも苦痛にならなそうな空間だ
私達は船頭さんにエサの付け方や旬のお魚、設備に至るまで様々なレクチャーを受けて各々釣竿を握った
「どっちが早く釣れるか競争しません?」
「別に良いけど」
「よっしゃ!じゃあスタート!」
水深がどれくらいのものなのかは解らないが深く黒にも似た青色だけがひたすらに続く水平線は暖かな太陽に照らされてキラキラ光る
そんな広大な海の中へ糸を垂らして本当に魚が釣れるのか不思議に思う
これだけ広いのだから魚も沢山居ると言われれば其れまでだが
これだけ広いからこそ針先に付いた小さなエサに魚がどうやってたどり着くのだろう
なんてぼんやり考える
聞こえるのは波の音と遠くで鳴く鴎の声だけで実に穏やかだ
そしてはたと意識する
今この空間は陸から隔離されている分限りなく彼と二人だけの空間でありこの地球上に彼と私の二人だけの様な錯覚を覚える
「イルミさん」
「何」
時折竿を揺らす以外する事も無く声をかけてみる事にする
「イルミさんは今迄で楽しかった事って何ですか?」
「うーん」