第4章 歯ブラシ
翌朝、目覚めるとイルミさんは既に起きていて開脚ストレッチを行っていた
暫く横になったまま布団の中から見詰めてみる。寝起きの目に彼は朝日よりも眩しく映る
(イルミ様…… 見目麗しい……)
溜息が漏れそうな程にしなやかな動作だ
彼はジャージ姿では無く昨日説明して手渡した簡易の我が弟の洋服に身を包んでいた
(お古で悪いけど、何着ても様になるなぁ…)
なんて呑気に眺めていたら
「起きてるんでしょ?いつまでそうしてるの?」
「っ…!!!おはようございます!早起きですね!」
「そう?…… あまり眠らなくても大丈夫な様に訓練してるからね」
「なるほど…流石ゾルディック家は一般市民とは違いますね!」
「まぁね」
ふ、と得意気な表情になった彼。
初めて表情の変化を見た嬉しさに笑みが溢れた
_______"
今私は人類には到底経験出来ない経験をしている
(昨日からそんな経験の連続やけど…)
聞いて驚くなかれ…… 私は今自転車の二人乗りをしている
勿論お相手は突如現れた同居人イルミさんである
何故そんな事態に陥ったのかというと遡る事30分前
「イルミさん、流石に実家に行くのに弟の服着てる彼氏はどうかと思うので、服とか色々買いに行きましょう!」
「そんなもんなの?」
(あかん…… 常識の水準が違うんや……)
私は一呼吸置いて強めに発言した
「そんなもんです。それと、これから毎日同じお布団はちょっとしんどいしお布団も買います。奮発ですよこれは。」
「俺は別に平気だけど」
「っ………!!!」
私の声色と相反する様に平凡なトーンで言って退けた彼に驚愕し、顔に熱が集中するのが自分でも解った
(ほんま!なんやねんこの人!只でさえ憧れまくった張本人やのに
……危うくコロッと落とされかけたわ!……違う。絶対違う……この人常人と感覚が違い過ぎるし、私に魅力も無いから女じゃなくてペッパー君より進化したお喋りロボットくらいに思ってるんやわ……)
不本意ながら解釈は正しいだろう……
私は気を取り直して寝具の購入を押し切った。
イルミさんは「本当に平気なのに」と拗ねた様に呟いただけで反対意見は言わなかった
昨日1日だけの事だがイルミさんは意外に聞き分けが良い。
…… まだ多少遠慮しているんだろうけど。