第3章 無事終了
暫くして彼はジャージを身に纏って座椅子までやって来た
こっちの世界に来られた時にご着用だった奇抜な服はお洗濯の後イルミさん専用の段ボールに詰める事にして
(ごめんね、イルミ様…… 段ボールとかに詰める事になって。ごめんね、カラーボックスとか買っても置く場所無いから……)
心の中で謝罪を繰り返しつつ
チラリと彼を見遣ると彼は綺麗な黒髪からポタポタと垂れる滴をそのままに大人しく座っていた
(…… 借りて来た猫か……?)
「イルミさん、髪乾かします…?今日も寒いし風邪引きますよ」
「うん。そうしようかな」
肌に張り付いた艶やかな黒で余計に肌の白さが際立って妙に色っぽく見えてどぎまぎしながらもドライヤーを手渡した
________"
すっかり頭から抜けていたが寝具は一組のみだった
真冬に炬燵も無い部屋で雑魚寝は自殺行為に等しいと私は思う
一組の寝具を前にどうするべきか頭を捻って立ち尽くす私を他所に
目の前に広がったのは
さも当たり前の様に布団へ横になるイルミさんの姿だった
「えっ!?」
「え?」
「ん?!」
「どうしたの?寝ないの?」
驚愕する私に投げ掛けられる淡々とした台詞に何と返すべきだったのだろうか
私は咄嗟の防衛本能で布団を取られるっ…!!!と思ってしまい
隣に潜り込んだ
当然の事ながら寝具はシングルで、161センチと女性の中では小さい方では無い私と185センチの男性が二人となると窮屈にも程があった
(密着感パネェ…………っ)
微動だにしないイルミさんとは、おやすみ、と挨拶を交わしたっきり話す事は無かった
(寝れる訳無いやんっ……心臓いくつあっても無理や……何としてもお布団もう一組買おう……自分の生命維持のために……)
等と考えていた5分後には夢の中だった。
________"
スースーと寝息を立てるこの部屋の主を盗み見て一つ溜息を付く
(信用し過ぎなんじゃない?)
…なんて、彼女は知るよしも無いんだろう。