第37章 宿の男女
溜息が首筋にかかって擽ったい
高速で脈打つ心臓の音は彼に届いていないだろうか
彼はゆっくりと離れるとティッシュを手渡してくれたので背中を向けてアルコールを拭っていると不意に温もりが私を包んだ
突然の出来事に脳が付いていかないがどうやら私は後ろから彼に抱き締められている様だ
「イルミさん……?」
戸惑いから震えた声
彼は何も言わずにぎゅっと腕に力を込めた
「………えっと……」
アルコールを拭っていたせいで
はだけた胸元に彼の腕が回り肌と肌が触れ合って急激に体温が上がる
「ねぇ沙夜子」
普段より低い彼の声
「はい」
「俺の事嫌い?」
「え?!いえ……」
耳元で発される声にビクリと肩が揺れる
彼の真意が解らない
「……イルミさんは私の事嫌いですか?」
「いや」
暫くの沈黙の後に突然普段の声色で良い事を思い付いたと言い放った彼に私は更に振り回される事になる