第37章 宿の男女
ポンポンと隣の座椅子を叩く彼に導かれる様に隣に腰を下ろせばお猪口を手渡される
「飲み直すんだよね」
「あ、はい」
並々注がれた酒に口を付けるが戸惑いからか飲み損ねて唇を濡らしたのみで首筋を伝い胸元まで流れ落ちてしまった
彼の視線がその滴を追って胸元まで落ちる
やはり普段の彼とは違う、と感じてしまう
自宅で隣同士眠っていたってそんな雰囲気になった事は一度も無い
況してや入浴を済ませて隣同士座って話す事だって日常茶飯事なのに………なのに何故そんな目で私を見詰めるのだろうか
ゆっくりと視線を上げた彼と目が合って視線が絡む
色気を含んだ表情を浮かべた彼が徐に距離を詰めて頭の中に警報が鳴る
「あはは、ドジった……!ティッシュあります?」
えらく裏返った声が静かな部屋に響いた
形の良い唇が首筋に近付き触れる寸前で咄嗟に出た声だった
「はぁ……ティッシュね」