第32章 花見で一杯
「何?」
「花びら付いてましたよ」
指先に掴んだ桜を見せると
「………沙夜子も付いてる」
ぐっと距離が縮まり至近距離に彼の顔が迫った
驚きの余り瞬きを忘れる一時お互いの呼吸を感じる程の近さで目が合った
ほんの一瞬の出来事で彼は先程の距離感に戻り指先に捕まえた花弁を眺めているが
私の心臓を爆死させるには充分の威力だった
それに追い討ちを掛ける様に
「お揃いだね」
なんて、柔らかな微笑みを向けられて私はぎこちなく笑みを返すのが精一杯だった
その後私は変に意識してしまい
緊張を解したい一心で酒を煽り続けた結果
………………見事に出来上がってしまった
帰路を行く足取りはふらふらと覚束無い
「イルミさん……」
「なに」
「腕掴んで歩いて良いっすか」
「うん」
自分的には思い切ったお願いだったが彼は何時もの調子で了承してくれた
逞しい腕に掴まり歩きながら
もう少し可愛い言い方を出来なかったものか…………
と少し後悔した