第30章 四月馬鹿で自覚する
彼が今どんな表情をしているのか解らない
やたらに早い鼓動は彼に届いてしまっているだろうか
サラサラで艶やかなストレートの髪に顔を埋めると彼の香りがして更に心臓がはね上がった
(うわぁ……………!!!!!どうしようっ………!!!!)
今更離れる事は出来ずとにかく身体中が熱い
すると不意に逞しい腕に抱き締められ一際はね上がる鼓動がうるさかった
彼が受け入れてくれた喜びと幸福感で胸が一杯になる
私はこのまま死んでしまっても良いくらいの喜びで更に腕に力を込めた
彼も私と同じ気持ちなのだろうか……緊張したりドキドキしたりしてくれているのだろうか……
呼吸の度に彼の香りが胸に広がって溶けてしまいそうだ
「沙夜子……」
「………はい」
彼の穏やかな声色にキュンとする
「あったかいね」
「あったかいですね」
私達はただ抱き締め合って穏やかで甘い一時を過ごした
___________"
スヤスヤと隣の寝具で眠る彼女の癖のある髪を指先で流す
「はぁ…………」
自身の気持ちに気付いてしまった……
今まで気付かぬふりをして目を背けてきたがどうやら限界らしい
彼女にまんまとしてやられた
基本的に何にも執着しない自分だが彼女に関しては気になって仕方がないのだ
(どうしたら好きになって貰えるんだろう……)
なんて柄にも無いことを考えたが
そのままの自分で無いと意味が無い気がしてしまってまた1つため息が漏れる
そもそも彼女の気持ちが解らない
今まで人の気持ちを汲み取ろうとした事なんて一度もなかった
(………らしくないな)
日に日に彼女に近付きたいと思う気持ちをそっと胸に仕舞って彼女の寝顔を見詰める
「ねぇ………沙夜子は俺とどうなりたい?」
呟きは静かな室内で誰にも届かずに溶けて消えた