第29章 キッチンでのヒトコマ
「ちゃう!割って入れてください」
「あぁ、そうなの」
彼が浮世離れしているのは知っていたがまるままの卵をボウルに入れるとは思っていなかった
彼はボウルから卵を取り上げると
そのまま握り潰した
粉砕された卵はボタボタと垂れてホットケーキミックスに混ざってしまった
「………なんでやねん」
「え、違うの?」
確か彼は日頃料理番組を見ていた筈……初歩の初歩である卵を割るという行為を何故知らないのか不可解だ……
彼は今まで何を見ていたのだろうか
本当に彼は私の予想の範疇を越えて行く
ボウルに混ざった殻を全て取り除くのは至難の技だ
「…………作りなおしましょう」
再び同じ手順を踏みあとは卵だ
「イルミさん、こうやって割るんです。殻は入れたらダメです」
私は卵をコンコンとキッチンの角に当てるジェスチャーを見せてから手渡す
彼は言われた通りに卵を割り無事ボウルに投入する事が出来た
「じゃあ混ぜてください、私フライパン熱しときますから」
「わかった」
彼は私に言われた通り素直にホットケーキミックスをかき混ぜ
私はその間フライパンでバターを溶かして行く
かなり高カロリーにはなるがバター好きな私流である
十分混ざったボウルを彼から受け取り六枚焼き上げた