第26章 暗闇のヒトコマ
シャワーの栓も解らず止める事も出来ずまたもやパニックになってバスチェアに躓き転んで全身に冷水を浴びる
「いやーーー!!!」
狭い風呂場で頭を打つやら何やらバタバタしていると
シャワーに混ざって微かにノックの音と声が聞こえた気がして耳を澄ます
「……沙夜子、何してるの?」
普段決して私の入浴中に脱衣室にすら近寄らない(当たり前やけど)の彼から声を掛けられてまた慌てふためく
「電気消えて水濡れて転けて!寒い!」
「少し良い?」
「はい?!何?!聞こえっ…………」
私の言葉が途切れたのは風呂場の扉が突然開いたからだ
そして彼はすんなりとシャワーを止めた
まるで辺りが見えているかの様だ
しかし実際の所停電してからほんの数秒の出来事で、目が暗闇に慣れるにはもっと時間を有する筈だ
「えっと………」
姿形はまるで見えないので気配のする方に向かって声をかけると突然頬に暖かい手が触れて悲鳴にも似た声を上げる
と同時に自身の体が冷えている事を認識して寒くなった
「冷えてる。風邪引いたら大変だから湯船で温まってから出て来なよ」
思いの外近くから声がしてパニックが加速する中頬の手は離れて彼が何処に居るのかまた解らなくなった
「早く目を慣らすには暫く目を瞑ると良いから」
そう言った彼の声は先程に比べると辺りに響かないので脱衣室に出た様で直後に風呂場の扉が閉じる音がした