第2章 お金と条件
夕飯は楽しい気持ちのまま終える事が出来た。
今はテレビを二人並んで見ている。情報を得たいのか彼は食い入る様にずっとニュースを見ていて、そんな彼の横顔を私はずっと見ている。
昼間よりも自然に距離が縮まった様に感じるのは私が多少慣れてきたのかもしれないと思っていたのだが……前言撤回。
刺さる様な熱烈な視線が気になるのか時たま私をチラリと見る度に視線が交わり
その度に私は心臓発作を起こすんじゃないかと思うくらいドキドキしたりした
そして肝心な事が忘却の彼方だった事を思い出す
ニュースから流れるアナウンサーの「お正月」というフレーズに昼間、実家で交わした母との会話を思い出した
もう少しで鼻血でも吹き出しそうだった私のおめでたい頭はみるみる内に正気に戻る
「…あの、イルミさん」
「なに?」
テレビを消して私の方へ向き直る彼
食後も「ごちそうさま」としっかり伝えてくれるイルミさんは意外に律儀かもしれない
「明々後日…私の実家に一緒に出向いて頂けませんか?」
彼は思考を巡らせる様に視線を外した後に
「沙夜子の実家に?何で?」
至極真っ当な疑問をぶつけてきた
先程母からのメールに
【翔太とお父さんにはイルミ激似の彼氏が出来て正月に連れて来るって伝えたから】
というメッセージが入っていた
「やっぱりこの歳になって同居ってなると…彼氏…?みたいな人じゃないと変っていうか…実家がめっちゃ近いから目撃される可能性もあって…」
しどろもどろになりながらも続ける
「それに、玄関直すお金出してくれたんもウチの親やし…」
正確には借りたのだが、ここは是が非でも実家へ駆り出さねばならないのでそう言っておく事にした
彼は暫く視線を落として思考を巡らせるとまた真っ直ぐに私を見詰め
「俺は沙夜子の彼氏のふりをして実家に行けば良いって事?」
と小首を傾げた
確かにそういう事なのだが、言葉にされると恐れ多い事態だ