第8章 〜最愛の人〜
声をあげた透さんに、私は全神経を集中させて見守る。
首が動き、瞼が動いて、透さんは目を開いた。
透「んっ...。」
『透さんっ!?良かった、本当に良かった...。』
私はポロポロと涙を流した。泣きながらナースコールを押して、透さんの意識が戻ったことを知らせると、すぐに先生がやってきた。
先「自分の名前は言えますか?」
透「降谷零...。」
透さんは先生から問われた質問に色々答えていた。全部簡単な質問だったけど、大事なことなんだろう。
先「問題無いでしょう。あと2週間ほど入院してもらって、色々検査しますね、それで問題がないのなら、1年も経たずに、元の生活へと戻れますよ。愛する人のおかげですかね?」
先生は私を見てにっこりと微笑む。
『透さんっ、ずっと待っていたんですよ。約束でしたから...。』
透「ずっと待っていてくれて、ありがとうございます。真恋音さん...。」
『うっ...ふぇっ...。』
私は透さんに抱きしめられながら、泣きじゃくった。
本当に意識が戻って良かった。この1年、本当に長かった。記念日なんて透さんが病院に居る間に通り過ぎてしまった。でも良いんだ。これから先も透さんと私はずっと一緒にいるんだから。
『もう、どこにも行かないで下さいね。ずっと私の傍にいて。』
透「ええ、でも、組織の奴らに、俺が生きているとバレたら、俺も貴女も殺される可能性がある。家を新しく用意して、別の所で一緒に暮らしましょう。」
『はい...。もう2度とこんな思いはしたくありませんっ!』
透「でも万が一の事があれば、その時は、一緒に地獄に堕ちましょう。その位の覚悟で俺の傍にいて下さいね。安室透の名も2度と呼ばないで、これからは零だから。」
『はい。れいさんっ!』
零「あと、言い忘れてました。真恋音さん。俺と結婚して下さい。」
『え?今ですか?』
零「はい。今すぐ、ここで返事をお願いします。眠っている間も、ずっと不安だった。こんな俺に愛想を尽かしてるかもしれないって。目覚める時の安心感が欲しいんです。だから...。」
何かを言いかける零さんに、私はこう言った。
『はいって言葉以外、見つからないです。これからよろしくお願いします。零さん。』
零「こちらこそ。ずっと傍にいて下さいね...。」