第8章 〜最愛の人〜
明日は私の誕生日。9月9日。透さんが眠り続けてもうすぐ一年になる。去年の紅葉は暑かったせいで綺麗に見れなくて、冬は綺麗な銀世界で、春には綺麗な桜、今年の夏は暑かったし、また紅葉の季節が来てしまう。
『透さん...、ずっと待ってるからね...。』
この1年間、泣きたくなった時が数え切れないくらいあった。毎日通っても目覚めない、意識が戻らない透さんに、このまま2度と目が覚めないかもしれないと思ったこともある。それでも信じて待っている。生きているから。透さんはまだ暖かい。
『透さん、また明日。』
透さんに明日の約束をして、病室を出る。もう顔馴染みになった風見さんとは、連絡先も交換している。意識が戻れば仕事中であっても、飛んで翔けつけるつもりだ。
咲璃愛も沖矢さんも、咲璃愛のお父さんが用意してくれたマイホームで、子育てを頑張っている。統雅くんも恵麗那ちゃんも、2人とも首が据わって、どちらに似ているかまではっきり分かってきた。2人とも目がオリーブ色なのは、きっと沖矢さんの本当の瞳の色。統雅くんは、咲璃愛に全然似ていないけど、恵麗那ちゃんは咲璃愛にそっくりだ。双子ちゃん達に会いに行く度に、透さんとの赤ちゃんが出来たらどんな感じかな?とか、色々考えてしまう。
透さんが目覚まさなくなってから、夜がダメになった。大尉が隣にいても、物足りない、透さんに抱き締めて欲しい。愛して欲しい。私にだけ笑って欲しい。と、透さんの事をいっぱい考えて、夜は一人で泣く。大尉を撫でて、寂しさを紛らわす。そんな生活を約1年続けてきた。毎日、毎日、日記を透さんの病室で書いて、読み返す。この1年、色んなことがあったよって、透さんに聞かせたい。だから、目を覚まして。
今日もまた、仕事終わりに病院へ行く。
『透さん、こんばんは。今日は私の誕生日なんです。』
透さんは表情ひとつ変えない。当たり前だ。意識がないのだから。それでも私は話しかける。
『26歳になりましたよ?来年は一緒に祝って下さいね。』
来年か...。あと何回、来年を繰り返せば、透さんは意識が戻るのかな。
『私、お婆ちゃんになっちゃいますよ...。』
透「んっ...。」
『透さんっ────!?』