第5章 一歩進んで五歩下がる
端末を仕舞う。凹んでいる場合ではない。砂粒からの連絡は私の居住まいを正せるには十分過ぎる情報であった。
『何人かの戦士が雇われたみたい。もしかしたら、貴方のいる町にもう潜伏しているかも。気を付けて』
諸国の国王が病に倒れた。延命のために、不老不死のために私の噂を聞き付けて藁にもすがる思いで精鋭を雇って捕まえに来る。ああ、よくある話だ。また、同じ話だ。飽きずに繰り返された話だ。
「厄介な事になるか」
早めに買い物を済ませてさっさと憂城を連れて町を出るべきだろう。今このときにも襲撃される可能性があるのだ。
「よう、偶然だな」
町中の雑路を進みながら脱出の手順を長考していると前方に見覚えが有りすぎる姿。全身、ブランドのスーツに身を包み髪をキッチリと整えた断罪兄であった。失念していた。イベントラッシュで彼等の存在を軽く忘れていた。
「お前、時間あるだろ?ど、どうだ?これから俺様と」
「すまん、時間はない。私はこれからここから出る。あ、そうだな。君には昨日の礼をしていなかったな。見送り感謝する。ではな」
だが彼に構っていられない。未知の脅威が迫っているのだ。口早に告げて彼から背を向けたが手首を掴まれ阻まれる。訝しげに彼を見るが彼は真剣な顔で。
「狙われてるのか?」
「あ、ああ」
彼の摯実な態度に気圧されて思わず頷いてしまった。
「俺様が守ってやる」
「…は?」
冗談で、言っている様子は無い。しかし、困惑は隠し通せない。昨日といい今日といい、やはり調子が狂ってしまう。目の前の彼は本当に断罪兄かと疑ってしまうレベルであった。
「…チッ、雇われてやるって言ってんだよ!俺様が態々!だからさっさと俺様を雇え!」
「えっ、ああ、だが手持ちが」
「後払いでいいぜ?」
キッチリカッチリタップリ頂いてやるからなとニヤリと邪悪に嗤う断罪兄に安堵した。良かった。何時もの断罪兄だ。安堵したが後が怖いな。
「しかし、良いのか?君は今から商談か何かとかではないのか?」
「あぁん?商談?んなもんねぇよ」
「そうなのか?随分と気合いの入った服装だったから」
「…いや、これは、その、お前と、…何でもいいだろが!で相手は?」
「すまん、まだ詳細は不明だ。戦士としか」
だが干支十二家ではないようだ。と続けようするが悪寒と冷たい声がそれを止める。
「ねぇ、君の隣の子、ダレ?」
