第2章 ルクリア
「俺はさ」
少しの沈黙の後でカカシ先輩が口を開いた。私は黙ったまま、低めの声に耳を傾けた。
「この匂い好きだなぁ」
何の気なしに呟いたのかもしれないが、好きという言葉に私は思わず照れてしまった。そして私が選んだ香りが褒められたのだと、嬉しく思った。
「ありがとうございます。私も気に入っているんです」
照れ笑いを浮かべながら香りの名前を伝えたところで、紅の高くて綺麗な声が私を呼ぶのが聞こえてきた。
「ちょっとぉー夢乃ー」
「すみません、呼ばれてる。はぁい」
カカシ先輩は片手を上げてひらひらと振った。いってらっしゃい、ということかなと解釈して私はゆっくりと立ち上がる。顔がほんのりと火照っていて、足元は少し覚束ない。そこそこ飲んでしまったし、私も酔っているんだろう。ふわふわとした感覚を抱えながら、手招きをしている紅の元へと向かった。
◇◇◇
「きーーーぃてたぞおぉ」
背後からガイの声が降ってきたが、俺はそれを無視する。そんなのお構いなしにガイは俺の右隣にドカリと座り込んできて、のしっと肩を組まれる。腕が重い。暑い。そして酒臭い。
次いでアスマが酒瓶を持って左隣へ座った。こちらも臭い。
「ありゃ伝わってないな」
面白がるような顔をしたアスマは夢乃の方へと視線を向けている。
夢乃は紅やアンコ、その他のくノ一たちに囲まれて楽しそうに微笑んでいる。そのやや赤みがかった頰を見つめながら、俺は適当に相槌を打つ。
「ん?何が?」
アスマが飽きれ声で、とぼけやがって、と言い俺の頭の上に手を置いてわしわしと髪を乱した。
俺はさっきまで鼻をくすぐっていた匂いを思い出していた。いまから男たちの酒臭さに掻き消されるであろうその前に、あの匂いを覚えてしまいたかった。
(しとやかで彼女にぴったりの匂い)