第2章 ルクリア
そう言われて一瞬戸惑った。
上司、男性、間接キス。そんな単語が頭に浮かんできて、躊躇わせた。けれど私がいいですよとも駄目ですとも言う前に、カカシ先輩はこくりと喉を鳴らしていた。口布は相変わらず外した形跡も見られず、平然としているのに、お酒の量はほんの少し減っていた。
カカシ先輩はグラスの、私のリップの跡が無いところに口をつけたようで、私はなんとなく安心した。
「うん。飲みやすくて美味いね」
「お口にあって良かったです」
にこりと笑いかけられて私も笑みを返した。そうしているうちに先程注文した瓶ビールと新しいジョッキがやってきて、私はそれらを店員から受け取った。
ビールを注ぐと、とくとくと音がして泡が湧き上がった。ありがとうとお礼を言って、カカシ先輩はそれをぐいっと飲んだ。泡の層はみるみるうちに下がっていった。
「そういえばさ」
あっという間に空になったジョッキにもう一度ビールを注ごうとした私を制止しながら、カカシ先輩が話を切り出した。
「今日はいつもと違う匂いがするね」
少し酔っているのか、カカシ先輩の瞳は控えめに潤んでいて、私の鼓動は跳ね上がった。
「シャンプーを変えたんです」
ぽつり、そう答えるとカカシ先輩はふぅんと言って、空のジョッキをテーブルの上に置いた。
そこからお互いに黙ってしまって、話が続かなくなってしまった。
いつもと違う、って、カカシ先輩は私のいつもの香りを覚えてたってこと?
いや、自惚れちゃいけない。カカシ先輩は嗅覚が優れているという話を聞いたことがある。だからきっと、匂いの変化に気付いたんだろう。でなければ、私が前に使っていたシャンプー、あるいは石鹸類が何か特徴的な匂いをしていたのかも。
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