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短編

第1章 溶かされる温度





「今日は絶っ対にやだ!許せない!」
「悪かったって…」

折角のお出かけ日和に銀さんが遅刻をしてきたので私は腹を立てていた。
冬、晴れの日、寒空の下、駅前。待ち合わせ時刻から1時間経ってようやく彼はやって来た。

ここのところ些細な喧嘩が続いていた。決まって怒るのは私の方だ。
私のいない間に、買っておいた人気店のチーズケーキを勝手に食べたり、奮発して買ったいちご1パックをまるっと全部食べたりしていたことがあった。そのときは随分と怒った。楽しみにしてたのに!食べ物の恨みは怖いんだよ!
そういうとき銀さんはあまり悪びれない。美味そうだったからさ〜とか、いちごが食べてって言ってたからさ〜とか、あまりに適当なことを言うから、私はますます怒るのだ。
今日の銀さんは珍しく謝っている。なのに、私は許してあげる気になれない。

この寒い季節に外へ出かけようと提案したのは私だ。少し前に銀さんがプレゼントしてくれた丈の短い着物を、今日選んで着てきたのも私。だからこんな寒い中で脚を出して震えているのは自分のせいなんだけど。
いつ来るかな、もう来るかなと、高揚した私に冬の冷たい風は容赦なく吹きつけてきた。そうして1時間、待つほど寂しくなった。私だけが今日を待ち望んでいたように思えて虚しかった。

これ、銀さんに喜んでもらいたくて着てきたんだよ。
なんて言うのは、私のエゴなのかな。空を見上げて流れていく雲を視線で追い掛ける。引っ込みの付かなくなった怒りを、あの雲に乗せてどこかへ飛ばしてしまえたらいいのに。

お互いに黙り込んでいた中、先に口を開いたのは銀さんだった。

「んじゃ握手をしよう!」
「え?」
「仲直りの握手。ほらっ!」

突然差し出された手に、思わず首を振ってしまう。
まじまじと見ると銀さんの手は自分のそれとは全く違っていた。指は長くて関節が骨張ってごつごつとしていて、手のひらは厚くて大きい。彼は男の人なのだと改めて気付かされる。

「や、やだよっ」
「仲直りするの嫌なの?」

あの銀さんが眉尻を下げてしょんぼりとしながら手を引っ込めた。私は狼狽える。

「そうじゃないけど…」
「いま思いっきり首振ってたじゃん。ブンブンしてたじゃん。嫌なんだろ」
「いや、だって、そんな、」



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