第11章 番外編

「誰だ、てめェ」


恐れていた事態はやはり、起きた。


ぎくりと肩を上げて声のする方を振り返れば、そこには目に見えてこめかみに青筋を浮かべるロー。


ナツはまだ分かっていなかった。
この男がどれだけ嫉妬深く、執着心が強いのかを。


「えっ、あ…ロー、これは…」


さっさと行けと追い払うようにジェスチャーを送るものの、元カレという名の起爆剤は興味深そうにローを見ている。


「…あっ、お前の彼氏？すっげぇハイスペックだなおい」


無遠慮にローを観察すること数秒。
何となく二人の関係性に気付いたらしい元カレが感心するようにそう呟いた。


男から見てもハイスペックイケメン。
しかもこの人、医者です。

それも大病院の医院長。
凄腕。

見える部分としてもやはりハイスペック。
日本人らしからぬその長身は、モデルと言われても誰も疑わないだろう。


「どうもー。初代です！すげぇかっけぇな！おたく何代目？」


やめろ。


へらへらと握手でも交わそうと手を差し出してはローの怒りに火を付けた本人はまだそれに気付かない。

勿論その手がかたく握り返されることもない。


去れ。


もう遅いけど、本当に去れ…！
どっか行ってくれ…！！


周りの空気が瞬時に凍り付く。
ナツはその絶対零度の空気の中、呼吸も忘れて硬直していた。

無言で、射殺するかの如く鋭い視線をぶつけてくるローに、ナツの冷や汗は止まらない。


いや、本当にごめん…！
そんなつもりじゃなかったんだ！
そこまで怒らなくても…！

ノーカンだろ、ノーカン。

これは合ったように見えてなかった事。
これを除けば本当に何もない。

院長先生の凄まじい戦績を考えれば
私は許されても良い筈…！


って、そういえばローはお付き合いというものをしたことがなかったんだっけ？
いやそれにしたって体の関係を持った事には変わらないだろう。


自分よりもはるかに恋愛遍歴があるローに、ナツは負けじと無言の訴えを続けた。


「…え、えっと。俺も彼女待たせてるからそろそろ行くよ」


漸く空気の重さに気づいた男はそそくさとその場を後にする。

取り残されたのローとナツ。
周囲の騒音が響く中で、重い沈黙が二人の間には流れていた。