Why大奥!?Trafalgar医院【ONE PIECE 】
第8章 ロー
ナツはなんとなく、その窓を開けてみた。
ずれた窓ガラスからは、夏特有の香りと湿った空気が入りこんでくる。
久しぶりに感じる外の空気。
ナツはその感触を楽しみながら、暫くぼんやりとしていた。
遥か下の方で、多くの人々が行き交っているのが見える。
地上からの距離は200mくらいだろうか、本当に人が豆粒のようだ。
ナツは窓枠に肘をつき、ここから助けを求める紙でも投げてやろうかと考え
アホらしすぎるその考えを鼻で笑ってしまった。
これだけの高さだ。
地上に届く前に風で流され、どこから助けを求めているかなんて分かる訳がないだろう。
それ以前に。
部屋を軽く物色させて貰ったものの、紙もペンも見当たらない。
ここの住所も分からない。
……携帯も、結局荷物と共に行方不明のままだ。
人を拉致監禁しておいて、外部との連絡手段であるそれを院長が持って来てくれるとは考えられない。
恐らく彼がどこかに保管してるんだろう。
とりあえず父はラインブロックされてることに薄々気づいてるはずなので、数日連絡が取れなくてもナツが誘拐されてるとは思わないだろう。
まったく、役に立たない父め。
自分でブロックしておきながら、取り合えず八つ当たりをしてみる。
外の心地よい空気に触れていても、ナツのため息は止まらなかった。
「ここから、下の階くらいなら行けるか?」
ぼんやりと過ごし始めて少し経った頃、ふと下の部屋に明かりが灯ったのが見えた。
……命綱も何もないが、この鎖があれば意外と行けるんじゃないだろうか。
鎖で宙吊りになり、窓にへばりつく自分の姿。
一流の芸人でも、こんなアクロバディックなことはしないだろう。
というか下の階に住んでいる人からすれば、迷惑を通り越してトラウマレベルだ。
ナツの頭に思い浮かんだ脱出方法は、公害すれすれの物であった。
「あぁ、うん。申し訳ないが下の住人には犠牲になってもらうか」
ナツは笑いそうになりながら、窓枠に足をかける。
閉ざされた空間で過ごす事は、それなりに精神を蝕む物なのだろうか。
元から突拍子もない事をしでかす気質を持っていた事も事実だが
信じられないことに、彼女は本気でそれを実行しようとしていた。