Why大奥!?Trafalgar医院【ONE PIECE 】
第7章 分岐
「癒されるー」
「めんこいね」
売られている子犬のゲージに張り付くナツを、ペンギンはベルトに手を引っ掻けながら眺めていた。
やべぇ癒される。
この連れて帰ってくれと言わんばかりのつぶらな瞳が堪んねぇ。
ナツはゲージの中でぴょんぴょん跳び跳ねてはどうや!と言わんばかりにこちらに目を向ける一匹のパピヨンに特に心を奪われた。
「その子気に入ったの?」
「やんちゃなのに褒めて欲しがり屋なこの子にノックアウト!」
しっぽを振りながらカチャカチャと、お互いを隔てるガラスに爪を立てるそのパピヨンはナツの荒んだ心にひとときの癒しをもたらした。
“スペシャルプライス!23万円”
どこがスペシャルだ。
例えどんなに癒しを与えてくれようとも、アパート暮らしのナツにはこの子を飼うことはできない。
というよりも。
現在家なき子かつ、いくら給料の高いtrafalgar医院で働いていたとはいえこの金額。
ナツが簡単に手を出せるものではなかった。
「実家帰ろうかなー」
「なに。仕事辞めたって噂はガチだったの?」
指でガラスをコンコンと叩きつつパピヨンをあやしているペンギン。
ラミアの連絡箱に投函して来た筈の退職届がなぜ噂になる。
辞めたとは言え、本当にどこまでも訳の分からない職場だったとナツは深いため息を吐いた。
「まぁ、色々ありまして」
「良んじゃね?ナツがそうしてぇと思うなら」
やはりペンギンは理由を聞いてこない。
聞かれても正直困る。
しかし公園に居た理由にせよ、仕事を辞めた理由にせよ、この前の電話の件にせよ
聞いて来る方が普通にすら思えるこの状況で全くそれに触れられないというのも、なんだか逆にもやもやする気がした。
「あ、ちょっとごめん」
ペンギンの携帯から鳴り響くアホ丸出しの着信音。
画面に目をやった彼は僅かに苦笑いを浮かべると、着信ボタンをタップしてナツから離れて行った。