第13章 有栖と白ウサギ
「よーし、有栖!行くぞ!」
『ああ。フェンリルよろしく』
「任せとけ!んじゃ、行ってくる!」
『行ってきます』
「うん、行ってらっしゃい。気をつけて」
クレイドルという国の書記官である彼の家に行くことになった僕は、フェンリルのエスコートで馬車に乗り込み、ルカに見送られて兵舎を後にした。
(馬車に乗るなんて 初めての経験だ…なんだこの乗り物は…おとぎ話か何かか?……そうか、この世界も一種のおとぎ話か…)
流れる景色を眺めながらそんなことを考えていた。
「…なあ、有栖。1つ、聞いてもいいか?」
向かい側に座るフェンリルの声に、窓から目を離し、彼と目を一瞬合わせてから視線を少し下げた。
能力のことを自覚してから何年かは、人と話す時は不自然にならない程度に目を合わせながら、目の合わないギリギリの位置を見て話そうとしていた。
しかし、3秒という時間は意外と短く、相手を不快にさせないように目を合わせながら話していると、聴こうとも思っていない相手の心の声が丸聴こえになってしまうのがほとんどだった。
元いた世界の人々は僕の能力のことを知らなかったから、どんな声が聴こえても、僕が表情を崩さずに我慢していればそれで済む話だったが、今、自分の目の前にいるのはそれを知っている人だ。
そう思うと、どうしても目を合わせることは躊躇われたのであった。
『ああ、いいよ』
「有栖が住んでいる世界に、信頼できる人はいるのか?」
伺うような控えめな色を含ませた目を見て、僕は麻里の顔を思い浮かべる。
『……いるよ、1人だけ』