第8章 魔法使いと黒のQ
『エルの中の人間の名前は、タカナシ アリス、だそうだ。
名前から察するに、おそらく女性だ。』
「…おそらく、というのはどういうことだ」
『彼女の一人称が"僕"だったんだ。
俺も気になったんだが、直接確認はできなかった。』
「そうか。それで?」
『ああ。どうして中身が違う人物になってしまったのかについてだが、どうやらエルが誤って、彼女の部屋にあった魔法の本を開いたことで、エルと有栖の魂が入れ替わってしまった、ということらしい。』
「まあ、そんなところだろうと思っていたが、そんな本がなぜエルの部屋にあったんだ?」
『…それはまだ俺にも分からない。今調べているところだ。』
「それは助かる。こちらでも調べてみよう。
…じゃあ、もう今日は遅いから、明日の昼頃にお嬢ちゃんを迎えに来るよ。それまで彼女をよろしく頼む」
シリウスは席を立ちながらそう言う。
俺は、ギリギリまで言うべきか悩んでいたことを、立ち去るシリウスの背に向かって静かに伝えた。
『……シリウス。もう一つ、彼女について伝えておくべき情報がある』
「なんだ?」
『…彼女は能力持ちの人間だ。
……手の平で相手の素肌を触るか、3秒以上目を合わせた時、その人や動物の心を読める能力らしい。
アモン=ジャバウォックを倒したとは言え、まだ残党が残っている可能性もある。奴らの耳にこの情報が入れば、興味を持つに決まっているからな。気を付けろ。
知っている人が少ないに越したことはないと思うが、お前にだけは言っておく。』
その言葉を聞いたシリウスは一瞬目を見開いたが、すぐに表情を戻す。
「なるほど、分かった。ありがとう、ハール」
少し微笑んでそう告げた後、真夜中の客人は入らずの森を去っていったのだった___。