第8章 魔法使いと黒のQ
有栖が入らずの森の家に来た日の夜、彼女が寝た頃に1人の来客があった__。
「ハール、いるか?」
『シリウスか。どうした、こんな夜中に』
「すまない、この家にお嬢ちゃんが来ているんじゃないかと思ってな」
『…彼女なら、そこの部屋で寝ている』
「そうか、それは良かった」
彼女、というのは、エル、いや、見た目はエルだが、中身はタカナシ アリス、という名前の女性…のことである。
どうやら、魔法のかかった本によってエルと入れ替わってしまったようで、混乱した彼女が入らずの森で気を失っていたのを、ロキが見つけて連れて来た、というわけだった。
家に入って来た彼女の姿を見た瞬間、俺は、彼女がエルではないことに気が付いた。
本来エルには なかったはずの微かな魔力と、封印の魔法を感じたのだ。
元々、魔力を持たずに生まれた人間は、後に魔法を使えるようになることはほぼない。もちろん、魔力を持たない人間の方が圧倒的に多く、エルもそのうちの1人だった。
俺のように魔力を感じることはできなくても、こいつなりに何か感じるところはあったのだろう。
旧友は、今起きている出来事について 少なからず理解できているようだった。
『…お前はどこまで知っている』
「……詳しい事情は分からんが、お嬢ちゃんがエルじゃないってことだけは確かだな」
『…そうか』
「詳しい事情を知っているなら、教えてくれないか」
『ああ、分かった』
真夜中の来客を自分の正面の椅子に促し、俺は 事の詳細を語り始めた___。