第8章 【明智光秀】拈華微笑
と、思い歩き出したのも束の間の事だった――
門をくぐり、ふと使用人等が使う厨への勝手口に目をやると。
先程頭の中に思い描いた通りの、千花の笑顔があった。
そして、笑顔を向ける先もよく見知った相手…政宗。
また料理談義に花を咲かせて居るのだろうか、等と考える。
未来からやって来たという千花は、此方の厨や食材になかなか慣れないらしく、よく政宗に相談していた。
そうして、練習したという料理を振舞ってくれる事が度々ある。
政宗が教える献立が、千花が作ったと言うだけで美味く感じられる自分に、驚いたこともあったか…
とは言え、今は久方振りに見た笑顔が自分に向けられた物では無いことに。
僅かながら、胸中に澱む靄――
「…どうかしているな、俺は」
そう、自嘲するように呟くと。
二人の邪魔をしても、と思い直し、声をかけることなく、城へと上がっていった。