第8章 【明智光秀】拈華微笑
その日も、朝を鶏が告げるより早く。
光秀は独り、城下を歩いていた。
城に上がる前に、ぐるり、と領内を歩き。
異変が無いかを見て回るのが、彼の日課であった。
独りそぞろ歩きながら思い返すのは、いつも。
褥に置いてきた、愛しい女の姿だ。
こうして朝を一人迎えようとも、愚痴一つ零さない――
「まこと、良く出来た女子よ」
思わず独りごちた光秀は、誰にも聞かれていないか…念のため辺りをぐるり、と見渡し。
ついでに、日が昇って来たのを確かめた。
そしてそろそろ城に上がるか、と方向を定めまた歩き出す――今日こそは早く御殿に戻り、千花の起きている笑顔を見たい物だ、と。
今朝最後に見た、幸せそうに笑んだ寝顔を思い出し、ひっそりと笑った――