第7章 【徳川家康】よく居る二人のよくある話
「…何してんの千花、こんな所で」
壁の向こうから、訝しげな声をかけられ。
振り向いてみるといつの間にか、真後ろまで迫っていた先輩にビクリと肩が跳ね上がる。
「…まさか、今のやり取り。聞いてなかっただろうね」
驚きすぎて言葉も出ないまま、一先ずふるふると首を振ってみると。
先輩はふーん、と、納得したのか否か、微妙な返事。
「と、通りかかっただけです…そう、たまたまでっ…!」
「…へぇ。まぁいいけど…丁度、あんたを探そうと思ってた所だから」
そして先輩はするり、と目線を下げ。
私の抱える箱と目を合わせ、止まる。
「…それは?」
「…っこ、これ、はですねっ」
まさか本人に指摘されるとは思わなくて。
返事に詰まり、顔を下げる。
目を逸らしても、じっと見られていることが分かるほどの強い視線に曝され、耐えられなくて逃げ出したくなる――
「俺のじゃないの」
「…え、」
「てっきり俺にくれるんだと思ったんだけど?違うの」
「も、貰ってくれるんですか…?」
そう返すと、先輩は形の良い眉を思い切り顰める。
「…貰わないなんて、言ってないだろ?」
「で、でも…心に決めた奴からしか貰わないからって…」