第7章 【徳川家康】よく居る二人のよくある話
「今年は、心に決めた奴からしか貰わないから」
そんな言葉が、身を潜める壁の向こうから聞こえてきて。
私は思わず持っていた包みを落としそうな程の衝撃を受け…しかし、何とか堪えて持ち直した。
言われた相手は耐えられなかったらしく、暫く号泣。
でも言葉を放った張本人――先輩のため息に追い討ちをかけられ、泣いたまま明後日の方向に走り去った。
流石の先輩も良心の呵責に耐えかねているのだろうか、その場に立ち竦んだまま。
後ろ姿を眺め、じわり、と涙が滲む。
今年こそは、と思ったのに――
胸に抱えた包みの中身を作った、昨日の自分に徒労だと教えてあげたい。
それでも後生大事に包みを離せないのは、去年も一昨年も、そうして渡さずに終わってしまったから。
そして今年こそ、と意気込んでいるのは、今年が最後だから――
彼は一学年上の先輩で。
来年からは大学生になってしまう。
バレンタインがまさかの三年生の登校日と被っていると知った私は意気込んで、こうしてチョコを用意したけれど…
まさか本人から先制パンチを喰らうとは思わなかった。
そして、見事に一発ノックアウトだ。
いつまでも此処に未練がましく居たところで、と。
やっと踏ん切りをつけ、踵を返す――