第6章 【猿飛佐助】無知に基づいた論証
「…帰りますか」
暫しの沈黙を打ち破るように、佐助はそう言うと。
嵩張る風呂敷包みを受け取ろうと、手を伸ばした。
千花はその手を眺め、じっと考え込むような素振りを見せ…そして、ゆっくりと口を開く。
「私も、忍びだからと…普通のおなごとしての生活は諦めてきた所がありまして」
佐助はその言葉に少し考え…先ほどの自分の言葉に対する答えだと思い当たり。
消え入りそうな千花の声を聞き漏らすまいと、しゃがみこむ。
「でも、姫様が忍びなど関係なく…私の事を友だと、言ってくださったので。
私自身そういう柵を捨てたいな、と思ったのです」
言い終わり、にこり、と笑う千花に思わず見惚れたその隙に。
風呂敷包みの乗る筈だった佐助の手に、千花の手が重ねられる。
「…意外と肉食系女子」
「え?佐助様、何かおっしゃいましたか?」
「いや、何でも。
…何事も無知のままだと勿体ないな、と思って」
繋いだ手そのままに、二人は掛け声よろしく、どろん、と。
煙を巻き上げ、その場から消え去ったのだった。