第6章 【猿飛佐助】無知に基づいた論証
「…ほら、あの人なら大丈夫みたいだよ。多分、何の心配も無い」
佐助の言葉に千花は頷き、ふう、と安堵のため息をついた。
自分が逃げ去った後、彼女が信長様に罰を食らったりしないか…と。
心配し泣きそうにしていたから、仕方なく様子を伺っているが杞憂に終わった。
それどころか、とんだデバガメだ。
家康公に知られたらどれ程怒られることか、と身を潜めるけれど、普段見れない二人の逢瀬に佐助自身も興味津々ではあった。
千花は何処か羨ましげな眼差しを、相変わらず二人に注いでいる。
そういえば彼女もバレンタインを控えているんだったな、と佐助は思い出し…大事そうに抱えている風呂敷包みを見遣る。
――誰だろう、まさか謙信様?
いや、仕えて長いから女嫌いなのは十分承知だろうし…
――よもや、信玄様?
いや、まさか口八丁に絆されるようなタイプではなさそうだ。
――幸村…?
これは有り得るのかも、歳も変わらないし…でも彼奴は意地っ張りだから、女の子相手となると意地が悪いんだけどな…
彼女の後ろ背を眺め、思考を巡らせていると。
突然振り返りこちらを向いた、千花の表情に面食らう――
「佐助様」
「…何か?」
たっぷり時間をとって返答する、その間にも。
じっと見上げてくる熱ばんだ視線には、見覚えがあった。